吸い込まれそうな位青い空を背景に、満開の桜が時折はらはらと花弁を散らせている。
 花弁は風に舞い、見上げた彼女の金髪に落ちて、その美しさに文字通り花を添えた。
スカイブルーの彼女の瞳から、温かい滴が頬に落ちて来る。
彼女――アイギスが人間たる証の、その滴を拭ってあげたくて、有里湊は手を伸ばそうとした。
しかし、腕が思うように動かない。腕が鉛のように重かった。地に溶けていくような脱力感と眠気が動作を邪魔している。
そろそろなんだな、と湊は何処か他人事のように思った。選んだ道に後悔は無い。奇跡に代償が必要な事は何となくだが理解していた。
「宇宙と等価の存在」だの「無限の可能性」だのと言われても未だにピンと来ないが、そんな虫のいい話は無いということぐらいはわかる。
その代償が自分の命だということも、薄々は勘付いていた。だから、という訳ではないが、今になって取り乱しても仕方が無い。
自分で決めたこと、その結果なのだから。
 どうにか指先がアイギスの目元に届いた。涙を指先で拭う。

 ――泣かないで。

 多分、言葉にはなっていなかっただろう。自分の口が殆ど動かず、彼女に気の利いた言葉の一つも掛けてやれないことが悔しかった。

「そうですね。おかしいですね。せっかく、大切なことがわかったのに、こんな……」

 涙を滲ませながらアイギスが笑う。綺麗だな、と思った。
 屋久島で彼女を初めて見た時もその容貌に目を奪われたものだが、その時とはまた違った意味で湊はそう思った。
それはきっと、命の美しさだ。アイギスはもう命令を果たすだけの機械ではない。怒り、泣き、悲しみ、笑う。
今のアイギスの中に確かに宿っている「生命」の輝きが、内から彼女を照らしているのだ。
 与えられた使命とは関係無く、自分を守りたいと言ってくれたアイギス。
 あの日屋上で不安気に瞳を揺らしながら、それでも精一杯の気持ちを自分に打ち明けてくれたアイギス。
 共に戦い、世界の終わりと向き合い、全てを思い出した時真っ先に自分を迎えに来てくれたアイギス。
 そんな呆れる位真っ直ぐで、純真で、ひたむきで、人間より人間らしい彼女を置いていかなければならないことが心苦しかった。

『あなたの命の終わりが例えいつ、どんな形で訪れたとしても……わたしはその時、必ずあなたの傍にいます』

 アイギスの部屋で彼女から聞いた言葉を思い出し、申し訳無く思うのが半分。約束を守ってくれた嬉しさが半分。
 心中は複雑で、その気持ちは泣き笑いにも似た歪みを僅かに唇に刻んだ。
 自分がいなくなった後のアイギスの事は心配だ。だが、きっと彼女は大丈夫だ。落ち込みはするだろうが、彼女には仲間達が付いている。
彼女が彼らと一緒に築いていく「これから」が、彼女の新しい生きる証となってくれる筈だ。……だから、大丈夫。
 眠気と脱力感はもう抗いようの無い程強くなってきていた。目蓋を開けているのもそろそろ限界だ。アイギスの顔が霞んで見えてきた。

「ありがとう……本当に……」

 労りと感謝の言葉が腹の底に染み渡ってくる。再び温かい滴が頬に落ちるのを感じながら、同じ言葉を返せないことをまた悔しく思った。

「疲れたでしょう……? 今はゆっくり休んで……私はずっと、ここにいるから……」

 アイギスの言葉は子守唄のような安らぎに満ちていた。
 ゆっくりと白くなっていく意識の中で、湊はたくさんの足音と聞きなれた声が近付いてくるのを聞いた。……ほら、やっぱり大丈夫だ。

「みんなとも、すぐに会えるから……」

 ――そうだな。

 肯いて、湊はゆっくりと目を閉じた。
 二十年にも満たない人生。それでもその中には喜びがあり、悲しみがあり、友人がいて、好きな人がいた。
 生まれてから今迄の記憶が走馬灯のように頭をかすめていく。最後に浮かんだのは、ニュクスとの決戦の場面だった。
天空から自分達を見下ろした巨大な異形。その異様と威容だけで自分達を押し潰さんとする、地上の生きとし生けるもの全てにとっての災厄。
その姿は湊の脳裏にはっきりと焼き付いている。
 人は、生きる意味を見出せぬままでは死と向き合うことなど出来はしない。けれど、その意味自体を世界が既に失っているのだと。
 世界の誰もがそのことに気付いていて、ニュクスとはそんな人々の想いの満ちた今という時代に望まれて訪れたのだと、タカヤは言った。
確かに、ニュクスの降臨は必然だったのかもしれない。ニュクスを解き放ったのは、紛れも無く人の手だ。
特別課外活動部でさえ、結果としてニュクス降臨に手を貸してしまった。彼の言う通り、誰か一人が為したことではない。
 では、滅びは人々の総意だったのか。一度見失った生きる意味は、もう二度と見つけることが出来ないのか。
 それは違う、と湊は想う。生きたいと思うこと。生きて、誰かに想いを伝えていくこと。
必ず来る終わりを知りながらも、その時が来るまでに何かを為そうとする決意。特別な力ではなく、誰の中にも息衝くもの。
 人を惑わす狂気や絶望は確かに存在する。だが、遥かな昔から命を次の世代へと繋いできた力もまた、厳然と存在する。
 滅びを防いだのはその力だ。自分はただその力の後押しをしただけ。湊はそう思っている。
見失った意味なら、また探せばいい。それが出来るだけの強さが、人間にはある筈なのだから。

 緩やかに息を吐く。その一息を最後に、呼吸する力さえ身体から抜けた。

 ――ありがとう。それから、すまない。




 こうして、有里湊の時間は終わりを告げた。












 スイッチを押されたように、唐突に目が覚めた。
 重い瞼をぼんやりと開くと、白い天井が見えた。下にあるのはシーツの感触だ。
身をよじって辺りを見回せば、カーテンの仕切りや点滴台、簡素な作りの引き出しなどが見えた。病院、らしい。
 湊は布団を除けて上半身を起こした。手を握ったり閉じたりしてその感触が嘘ではないと確認する。
 助かった? 現状を見る限りではどうやらそうらしい。予想外のことで、嬉しさを感じるより先に肩透かしをくらったような気分だった。
あの穏やかに命が流れ出していくような感覚が嘘だったとは思えなかったからだ。
 湊がそんなことを考えていると、病室のドアがガチャっと開いた。

「坂井君……!?」

 病室に入ってきたのは、見知らぬ学校の制服を来た少女だった。
 聞き覚えの無い名前を叫んだ少女は、ここが病室であることを思い出したようにはっと口に手を当て、きまりが悪そうな表情をした。
湊は再び病室の中を見回した。さっきも見たが、自分の他には誰もいない。
湊がそのことを疑問に思っていると、少女がとてとてとこちらに近付いてきた。
その動きはか細く控えめな見た目と相まって、小型犬のような印象だった。

「あ、あの、大丈夫なんですか? 起きても平気なんですか?」
「ああ」

 まだ身体に気怠い感覚は残っているものの、それはニュクスとの決戦後に感じていたものとは質が違う。
 体調に関して言えば特に問題は無いだろう。気になることは他にある。

「……僕はどうなったんだ?」
「千草さんのお話じゃ、坂井君、商店街で倒れてたって……それから一週間ずっと眠ったままだったんですよ」

 凄く心配しました、という少女の言葉を続けて聞きながら、湊は齟齬を感じていた。
 やはりおかしい。話がまるで噛み合わない。千草という人物に心当たりはない。
自分が意識を失ったのは月光館学園の屋上だ。それが何で商店街で倒れたことになっているのか。それに、何より。

「よかった……。本当に」

 根本的な間違いを指摘しようと湊が口を開きかけた時、少女が心からの安堵と喜びを滲ませたような声でそう言った。
 少女の目元には光るものがある。

「どうした?」
「ご、ごめんなさい。ほっとしたら急に……。坂井君、このまま起きないんじゃないかって心配だったから……」

 涙ぐみながらも、少女は微笑んだ。湊としてはどうにも居心地が悪い。
 優しい娘だ。この少女はその『坂井君』という人物のことを本気で心配していた。
少女の言葉の端々から滲み出る温かさやこちらを気遣う態度。出会ったばかりの名前も知らない相手ではあるが、少女の人柄は推し量れた。
だが、その思い遣りを受け取るべきなのは自分ではないのだ。この状況では言い出し辛いが、誤解は解かなければならない。

「……すまないが、誰かと間違えているんじゃないか?」

 どう切り出したものかと迷ったが、結局事実をそのまま伝える他ない。
 「はい」「いいえ」「どうでもいい」今迄の人生で駆使してきた三つの選択肢は、今回役立たずだった。
 
「……え?」
「だから、人違いだ。僕は『坂井君』じゃないし、君のことも知らない」

 少女の表情が固まった。何を言われているかわからない、といった顔でこちらを見返してくる。
 ようやく気付いてくれたのだろうか、と湊が思った時、少女は震える声で問い掛けてきた。

「……冗談、ですよね?」
「冗談を言う理由がない」

 湊の言葉に、少女の顔がさっと翳った。







 坂井悠二、原因不明の昏睡状態に陥る。
 その日の朝のホームルームで悠二が入院することになったと聞かされ、心配になって坂井家に電話した吉田一美が知ったのは、彼が意識を
失ったまま目を覚まさないということだった。
 悠二の母・千草の話によると、彼は商店街を歩いていた時、突然倒れたらしい。
 吉田はその話を聞いた時、思わず受話器を取り落としていた。全身から血の気が引いていくような気がした。
話を聞いてすぐ御崎市総合病院へと駆け付けた吉田が見たものは、白いベッドに横たわる坂井悠二の姿だった。
 外傷は無い。身体の何処かに疾患を抱えている訳でもない。
 今の彼の症状に当てはまるのは、つい最近まで流行していた"無気力症"くらいなものだと医者達は言った。
 しかし、仮にそれが的中していたとして何になろう。無気力症の治療方法は確立されていないのだ。
一時期は満月と回復の因果関係があると叫ばれたことがあるが、その説も結局は瓦解した。当然の如く、治療薬などある筈も無い。
 つまり、手の打ちようが無いのだ。出来るのはただ待つことだけ。
 彼はすぐ目を覚ますかもしれないし、ずっと目を覚まさないままかもしれない。
同じく見舞いに来ていた千草から聞いた話を要約すると、そういうことだった。
 その後のことはよく覚えていない。家に辿り着いた自分を見て、弟の健が「酷い顔だ」と言ったような気はするが、それにどのような返事
をしたのかは記憶に無い。夕食も取らずに、ベッドに潜り込んだ。
 一日が経ち、二日が経ち、三日が経っても悠二は目を覚まさない。坂井君がこのままずっと目を覚まさなかったらどうしよう?
 そう考えると不安が募り、胸の奥がキリキリと痛んだ。級友達にもそのことで随分気を遣わせてしまった。
 それが、やっと目を覚ましてくれたというのに、どうして彼がこんなことを言うのか、吉田には理解出来なかった。
先程とは別種の不安が、吉田の口を追い立てるように動かした。

「さ、坂井君どうしちゃったんですか? さっきから、そんな、まるで、初めて会ったみたいに」
「そう言われても困る。さっきも言ったが、誰かと間違えてるんじゃないか」
「じゃ、じゃあ、池君のことは覚えていますか? 中学時代からのお友達の」
「知らない」
「佐藤君、田中君、緒方さん……」
「わからない」
「わ、私っ、吉田一美ですっ! 同じクラスの!」
「すまない。会ったこともないと思う」

 突き付けられた酷い事実に、吉田は絶句するしかなかった。  







 和やかな雰囲気が一瞬にして硬質化したのを肌で感じ、湊は戸惑った。少し言い方がキツかっただろうか。
 怖い物でも見るような目をしてこちらを見る少女。湊は気まずく視線を逸らした。
まだ若干気怠い身体に力を入れ、ベッドから足を下ろす。ドアに向かって歩き出した。

「ど、何処に行くんですか?」
「受付だ。担当医の名前を聞いて、今後のことを……いや、この場合看護師さんを呼んだ方がいいのか」

 仮にも一週間も意識不明だった自分がふらふら動き回れば、病院関係者に迷惑がかかるかもしれない。
 初めてペルソナを召喚した時も似たようなことを経験したが、あの時も検査やら何やらで目が覚めたから即退院という訳にはいかなかった。
何にしても、勝手に病院を出て行くつもりは無かった。

「わ、私が呼んで来ます! だから、坂井君はここにいて下さい。すぐに戻りますから!」
「あ、ちょっと……」
 
 湊が制止する暇も無く、少女が弾かれたように病室を出て行った。バタン、とドアが閉まる音。
 しんと静まり返った病室。むなしく前に突き出された手を引っ込めて、湊はベッドに腰を下ろした。ため息を一つ吐く。
自分と坂井君なる人物とは余程似ているのだろうか。それにしても、あれだけ話せば気付きそうなものである。
彼女が同級生の身を案じる親切な少女だということはわかったが……少々思い込みが強いタイプなのかもしれない。
後でよく話して誤解を解いて置かなければ。
 ふと、病室が淡いオレンジ色の光で照らされていることに気付いて窓の外を見ると、西の空へと夕陽が落ちかかっているところである。
その光に照らされた街並みには、何処か寂しさを感じさせるものがあった。

「……?」

 そこにある景色を見て、湊は違和感を抱いた。ぱっと見ただけでも、住み慣れた街とは違うところが幾つも目に付く。
 港区にあんな大きな川は流れていなかった。あんな橋も見たことが無い。
ここからの眺めは、自分の知っている港区の風景のどれとも合致しないのだ。これはどうしたことだろうか。
 身を乗り出して、窓に顔を近付ける。その時、場所の違いなどほんの些細なことに思えるような衝撃が湊を襲った。
窓に映る顔は、有里湊とは似ても似つかない少年の顔だったのである。
 唖然とする湊の背後で、再びドアノブががちゃりという音を立てた。

「……悠ちゃん?」

 湊は、病室に入ってきたその女性に肩を叩かれるまで、そのまま固まっていた。









「今日は本当にありがとうね、吉田さん。悠ちゃんのために」
「いえ、私は何も……。坂井君のお母さんが来てくれなかったらどうしてたか……」
「そんなこと無いわ。こんなに遅くなるまで付き添ってくれて。そう言えば、お家の方に連絡は済ませた?」
「あ、大丈夫です。さっき電話して弟に『遅くなる』って伝えておきましたから」
「そう。お家の方にも後でお礼を言わせて頂くわね」

 湊は、坂井悠二の母親だという坂井千草、同級生だという吉田一美の二人の会話をぼんやりと眺めていた。
 正直、今の状況は悪い夢としか思えない。寝て起きたら元通り月光館学園の屋上にいるのではないかという淡い期待に縋りたい気分だ。
自分が変わった人生を送ってきたという自覚はある。デスを身体の中に封印され、それがきっかけでペルソナという超常能力に目覚めた。
シャドウという怪物と一年近く戦い続け、最期には月まで飛んで行ってニュクスのコアと対面を果たした。
鼻の長い怪老人曰く、あの時の自分は宇宙と等価の存在になっており、故に不可能な事象など何一つ存在しなかったらしいが……。
正直、未だに理解出来ない。その反動がこんな形でやって来るなんてことも流石に予想外だった。
誰も見ていなかったら、湊は頭を抱えて世の不可思議と不条理について懊悩していたことだろう。
 あの後、吉田が呼んで来た看護師と、一緒に来た医者、そして吉田と同じく我が子のお見舞いにやって来た千草が一室に集うことになった。
 千草は実の息子が自分を母親と認識しないことにやはり衝撃を受けたが、それでも吉田の話と息子の様子から大体の状況を察した。
彼女は気丈にも医者と話し合い、息子の容態のことを相談し合った。
 そして唖然とする湊を他所に始まった検査。湊は問診を受けた。頭部レントゲンを撮った。CTスキャンで脳の断面までチェックされた。
そして、湊に下された診断は「全生活史健忘」というものだった。
「発症以前の出生以来全ての自分に関する記憶が思い出せない」「障害されるのが自分に関する記憶で、社会的なエピソードは覚えている」
という所から医者はそう診断したのだった。検査には時間がかかった。
大事を取って二、三日このまま入院させ、それからの経過で今後の方針を決めようということに話が落ち着く頃には、窓の外は暗くなっていた。
 湊は医者が「発症後、記憶は徐々に元通りになっていくことが多い」という説明をして、二人が少し安心するところを見た。
 だが、元通りになる筈が無いと思っていた。何しろ中身が違うのだ。元から有りもしない坂井悠二の記憶など戻る筈が無い。

「悠ちゃん」

 湊は一瞬誰のことを言っているのかわからず、反応が遅れた。それを見た千草は、穏やかさの中に一点の悲しさを含ませた表情で言う。

「今は不安でしょうけど、一人で抱え込まないでね。私は悠ちゃんのお母さんで、吉田さんは悠ちゃんのお友達。今はそれだけ覚えていて。
それ以外のことはこれから思い出していけばいいんだから」

 千草の言葉は押し付けがましくない、さらりとした温かみに満ちていた。
 十年前の事故で死んだ両親のことを思い出し、湊は不意に切なくなった。多分、坂井悠二にとっても良い母親だったのだろうな、と思う。
吉田は千草の横で湊の顔を見ていた。頭の中で掛けるべき言葉を探しているように唇をもごもごさせている。
少し間を置いて、彼女が意を決したように開いた唇から出て来た言葉は「さっきは取り乱してごめんなさい。それから、元気出して下さい」
だった。吉田は言った後で湊の反応を怖がっていたが、湊は素直に励ましの言葉として受け取った。

「……ありがとうございます」

 何処の誰かも知らない少年として、今日初めて会った母親と同級生の少女に話をするというのは奇妙な感覚だった。
 実際の状況を知る者が見れば、全く見当外れの励ましだ。中身は別人なのだから思い出すも何も無い。
 初めて影時間に紛れ込んだ時に匹敵する、訳の分からない状況である。それでも、助けられたことに対する感謝の念は本当だった。
この状況で毅然とした態度の取れる千草に対して敬意の念を抱いたのも本当だ。
 千草は湊の返礼に微笑んで軽く頷き、吉田は少年の異変に気付いてからの表情の固さを若干和らげた。

「また明日来るわ。……吉田さん、お家まで送らせて頂くわね」
「いえ、そんな、お構いなく。私の家、ここから割と近くですから」
「駄目。夜中に女の子の一人歩きは危ないんだから。最近は何かと物騒でしょう?」

 話しながら、二人が帰り支度を始めた。二人が並んで病室を出て行く。ドアを閉める時、吉田は一度振り返ってぺこりとおじぎをした。
 湊はまた一人になった。

 ――全く、訳がわからない。

 一人きりになると、その言葉が湊の頭の中で回り始めた。一体何処でどんな力がどのように作用すれば今の状況が出来上がるのだ?
 思わず自分の頬を抓りたくなったが、やる前に無意味だと悟って途中で止めた。
窓を見れば、やはり見知らぬ少年の顔が映っているのだから。信じ難いが、今ここに自分がいる以上はそれを認めるしかない。
 横になって、湊は様々なことを考えた。特別課外活動部の仲間達のこと。吉田と千草のこと。そして、これからのこと。
あれこれと考えを巡らせているうちに、屋上の続きのように眠気が押し寄せてきた。
 こう眠くては考えごとをしていても仕方が無い。湊はそう思って目を閉じた。程なくして眠りは訪れた。
 眠りに落ちる直前に浮かんだのは、切なげに微笑む機械の乙女の姿だった。



あとがき

 相当無茶なクロスオーバー。 ペルソナ使いと"紅世の徒"が戦ったら面白いんじゃないかという思い付きだけで書き始めました。



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